Vol.93No.3 日下賞受賞者紹介(3)  門井浩太さん

                                     

 学会表彰のひとつである「日下賞」は,今後の活躍が期待される若手の研究者・技術者に贈られる賞です.2020(令和2)年度に受賞された方々の研究内容や今後の目標などを伺うシリーズの第3回目は,大阪大学接合科学研究所の門井浩太先生です.

 

 

 

 大阪大学 接合科学研究所の門井と申します.この度は日下賞という栄えある賞を受賞させていただきありがとうございます.思い返せば,私の研究生活は早稲田大学在学時の2003年に大学4年生で中江秀雄先生の研究室の門戸を叩いてからからスタートし,その後広島,大阪と各地方を渡りながら早いもので18年目となりました.
 早稲田大学では,学部4年生,修士課程,博士課程の学生ならびに助手の時代を過ごし,「鋳造法による発泡アルミニウムの製造と気泡安定化機構」に関する研究に従事しました.中江先生の教えは,「売れないドクターは作らない!」,(どのような分野でも研究していくため)「基礎学理をしっかり身につけ,着想力・展開力を養え!!」であったため,博士過程進学以降は発泡アルミニウム以外の研究にも着手し,必然的に忍耐力も養われた気がします.一方で「やるべきことはしっかりやって,遊ぶ時はしっかり遊べ!」の教えも,良いように解釈してガス抜きも要所でできました.早稲田大での成果は,Al-Si合金の共晶凝固過程に関する内容で論文賞を,金属基複合材料の製造に関する内容で優秀講演賞を受賞できました.一方で,メインの発泡アルミニウムに関する内容の方が論文数も発表数も多いにもかかわらず受賞がなし・・・という状況にも陥りましたが(笑).
 2009年学位取得後に,広島大学に着任してからは,溶接中の冶金現象・割れ欠陥発生現象の解明やこれらの評価法に関する研究に従事しており,現職の大阪大学への着任経て,現在に至るまで私の主たる研究テーマとなっています(1参照).

図1 ステンレス鋼のレーザ溶接時の凝固現象のその場観察

「鋳造」から「溶接」へと研究対象が変わりましたが,いずれも「溶けて固まる」ことを取り扱っています.異なる分野となってもここまでこられたのは,着想力・展開力・忍耐力などの早稲田イズム,中江イズムが根底にあるおかげだと改めて思っています.
 私の研究対象である凝固やそれに伴う割れ発生現象は,鋳造でも溶接でも起こりますが,分野が異なると使われる用語,解釈が異なることが多々あります.そのため,溶接分野に移った頃に直面した「何だそりゃ!?」と思ったことを,一つ一つ共通の用語に紐解き,じっくり考えると,「何だ,そのことか!!」となることがしばしばありました.鋳造品はそもそも溶接が難しい材料ですが,用語や解釈の違いが鋳造品への溶接の適用などに齟齬をきたしており,その間に存在する壁は高いと感じることが度々あります.

図2 片状黒鉛鋳鉄溶接部の溶融境界近傍で発生した割れ欠陥

そのような中,鋳造と溶接の研究を経験してきたからこそできるだろうと着想,実施した鋳鉄のアーク溶接用共金系溶接材料の検討をまとめた内容(2参照)で,2回目の論文賞を受賞できました.溶接分野で培ったことを鋳造分野にも還元できたと思え,前回論文賞を受賞した時に比して喜びもひとしおでした.今後も同じ状態変化を利用したものづくり技術である鋳造と溶接の架け橋となるよう,微力ながら尽力していきたいと思っています.

 

 

連絡先

所属:大阪大学 接合科学研究所 准教授
名前:門井浩太
〒567-0047 大阪府茨木市美穂ケ丘11-1
E-Mail:kadoi(at)jwri.osaka-u.ac.jp
*(at)を@に変えて送信ください.