学会表彰のひとつである「日下賞」は,今後の活躍が期待される若手の研究者・技術者に贈られる賞です.今号から,2022年度に授賞された方々の研究内容や今後の目標等をシリーズで紹介します.第1回目は地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの千葉浩行さんです.

 

 皆様,こんにちは.東京都立産業技術研究センターの千葉と申します.この度は,日下賞という栄えある賞をいただき、大変嬉しく存じます.さらには,YFEだよりにてご紹介いただき,誠にありがとうございます.

 私が鋳造に係わることになったきっかけは,恩師である早稲田大学吉田誠先生の研究室で大学4年生の卒業研究をし始めたことでした.当時,研究室を希望した理由は,企業の方と共同実施している研究テーマはやりがいがあり,面白そうというあまり鋳造と関係ない理由でした.そこから,研究を通して多くの皆様にご指導をいただき,日本の産業を支える実際のものづくりの中での「鋳造」を知ることが出来ました.そうしている内に完全にはまりこんでしまい,鋳造とのかかわりは気づけば15年となっています.

 私は,大学院卒業後,本田技研工業株式会社(以下,ホンダ)に入社しました.その後,ホンダ内の製作所の生産技術に関する仕事をするホンダエンジニアリング(現在は,本田技研工業と合併)に配属され,パワートレイン部品の鋳造に関連した仕事をしてきました.その中で,金型設計,金型製造(主に組立),鋳造部品の量産立ち上げ,新技術開発など本当に様々な業務を経験させていただきました.ホンダの強みであるチャレンジ精神を基に大変でありながらやりがいがある仕事が出来ていたと思います.鋳造に係わる知識・経験,ものづくりに対する考え方,仕事の仕方など,私の行動原理はホンダで培われたものであると大変感謝しております.

 現在,私は縁あって東京都立産業技術研究センターに入社し,金属AM(Additive Manufacturing,いわゆる金属3Dプリンター)に携わる業務を行っております.残念ながらセンター内の鋳造設備はなくなってしまいましたが,大学や企業との共同研究を通して,鋳造にも継続して係わりをもっている状況です.金属AMは,鋳造分野においても金型の冷却構造の最適化などの活用事例が報告されています.私自身,鋳造と金属AMの両方に携わっている人間として,両技術を融合し,付加価値の高い鋳造品の創出や鋳造におけるコスト削減(歩留まり向上,型寿命向上,材料ロス削減等)ができればと思い,研究しているところです.特に,金型を用いた鋳造方法でのキャビティ内に発生する背圧と湯回り性の関係の把握とその制御に関する研究を進めています.従来,鋳造時にキャビティ内で発生する空気だまりはガスベントの設置などで対策しますが,製品形状や金型構造上の制約で最適な位置にガス抜きを設置できないことも多々あります.しかし,今後の車体部品や電動部品への鋳造適用を考える上で,より大型なもの,より複雑なものにおいて,今まで以上に湯回り性を向上させるため背圧をいかに制御できるかが重要になると考えています.そこで,金型や入れ子などを金属AMで作製し(図1),ガス抜きに適した構造を持たせることで,湯回り性を少しでも向上させられないかと検証しています.これについては,鋳造工学会の全国講演大会や鋳造工学でご報告していければと思っております.

図1 実験で使用している薄肉鋳物用の金属AM入れ子

 
 最後になりますが,この度日下賞を受賞させていただけたのは,恩師である吉田先生をはじめとした先生方,様々な業界で活躍する鋳造経験豊富な大学の先輩方,共同研究をしている企業の皆様,この度推薦してくださった関東支部の皆様,そして日々一緒に苦楽を共にしている職場の皆様の支えがあったからだと思っております.改めて御礼申し上げます.この賞に恥じない活躍ができるように邁進し,少しでも鋳造分野の発展に貢献していく所存です.鋳造工学会の皆様,今後ともご指導のほど,よろしくお願い申し上げます.

 
連絡先

地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
千葉 浩行
〒135-0064 東京都江東区青海2丁目4-10
TEL:03-5530-2570
E-Mail:chiba.hiroyuki(at)iri-tokyo.jp
*(at)を@に変えて送信ください.