第92巻シリーズ「スポーツの世界で活躍する鋳物」

Vol. 92 No. 1「軽量高剛性アルミニウムホイール」
(アルミニウム合金のピンホールレス砂型鋳物)

令和元年度Castings of the Year賞受賞作
ヤマハ発動機株式会社


Vol. 92 No. 2「耐破壊型ダクタイル鋳鉄製小便器」

令和元年度Castings of the Year賞受賞作
伊藤鉄工株式会社


Vol. 92 No. 3「スケートボード」

第92巻の表紙の写真は,「スポーツの世界で活躍する鋳物」です.言うまでもなく今年はオリンピックイヤー.さまざまなスポーツが関心を集めています.そして,スポーツの道具の世界にも鋳造品あり.今年はそんな鋳物を紹介しています.

 今月は,スケートボードです.スケートボードの鋳造品は,トラックと呼ばれる,デッキ(板)とウィール(車輪)をつなぐ部分(右写真).強い力に耐えられるよう,頑丈に作られています.地味なようですが,これはスケートボードにおけるハンドルのようなもの.乗り心地や操作性を左右するもっとも重要な部品で,スケーターはトラック選びを非常に重視します.

今オリンピックから正式種目となるスケートボード.日本人のメダル獲得も期待されています.競技を見るときは,ぜひトラックにも注目してください.


Vol. 92 No. 4「スターティングブロック」

陸上競技にもいろいろな競技がありますが,花形の一つが短距離走です.トラックで行われる100~400メートル走や400,1600メートルリレーのスタートには,勢いをつけるためにスターティングブロックが使われます.選手はスタート前にブロックの足を置く部分の位置とブロックの角度を調節し,競技に挑みます.スターティングブロックは選手に合わせて簡単に調整することができるような構造となっており,多くの部品はアルミニウム合金鋳物で作られています.鋳物は縁の下の力持ちです.

 

4月は新しい年度が始まります.我々もしっかり足場を固めて,スタートダッシュしましょう.


Vol. 92 No. 5「自転車競技」

 

自転車競技には,ロードレース,トラックレース,BMXなど様々な競技があります.それぞれの競技に合った自転車が使われていますが,強度,剛性,軽量などの特性が要求され,使われる材料が変わってきました.フレーム素材は,スチールからアルミニウム,CFRPへと変遷してきました.軽量金属材料では,展伸材や鍛造材が多く使われていますが,フレーム部材,ブレーキ,変速機,ペダルなどの部品にはアルミニウム合金ダイカストが多く用いられています.右の写真は,ペダルボディのダイカスト素材です.耐衝撃性と耐食性などが求められるため,ADC6合金ダイカストが適用されています.表紙写真はツールドフランスでの新城幸也選手,東京オリンピック代表を目指しています.

写真提供:大前事務所,㈱三ヶ島製作所

 


Vol. 92 No. 6「ハンマー投のハンマー」

 

ハンマー投は,金属でできた球(ヘッド)とハンドルをワイヤーで繋いだハンマーをどこまで遠く投げられるかを競う競技です.元々は,金槌に鎖をつけて投げていたのが始まりとされています.

ハンマーは「ヘッド」,「ワイヤー」,「ハンドル」の3つのパーツで構成されており,3つのパーツ全てを含んだ重さは一般男子で7.26kg(16ポンド),一般女子が4kgです.この重さは砲丸投の砲丸と同じです.ヘッドの直径は一般男子で11~13cm,一般女子で9.5~11cm,ヘッドからハンドルまでの長さは一般男子で1.215m,一般女子で1.195mと定められています.

ハンマー投は遠心力を使って投げるため,ハンマーの重心は遠い方が良く,既定の範囲でできるだけヘッドを小さく重くしています.80mも飛ぶので強度も必要となり,中空のダクタイル鋳鉄の中心部に鉛とタングステンを入れたものもあります.ハンドルには軽量化のため,ジュラルミンを使っています.

 


Vol. 92 No. 7「ゴルフクラブ」

 

新緑のゴルフ場で,ティーショットを打つのは気持ちのいいものですね.表紙の写真は名古屋ゴルフ倶楽部の宮原雅人プロの和合名物ホール17番でのティーショットです.

ゴルフではいろいろなクラブを使います.ウッド,アイアンのようにその材質が名称にも残っています.より遠くに,正確にボールを飛ばすために,新しい材料が使われるようになってきました.アイアンにはもともと鉄鋼材料の鋳造品や鍛造品が用いられていましたが,ウッドにも金属のヘッドが用いられるようになりました.ドライバーと呼ばれる最も飛距離の出るクラブのヘッドには,右の写真に示すように軽量化のためにチタンの中空精密鋳造品が用いられています.ボールを打つフェースはチタンの圧延材を削り出したもので,溶接接合しています.

表紙写真撮影協力:名古屋ゴルフ倶楽部
ゴルフクラブ写真提供:ヤマハ株式会社

 


Vol. 92 No. 8「フェンシング」

 

 フェンシングは第1回の近代オリンピック(1896年,アテネ)以来,今日に至るまで毎回正式種目となっている伝統ある競技です.フェンシングのどこに鋳物が使用されているかご存知でしょうか? 実は,ヒルト呼ばれるグリップ(持ち手)で,ベルギアン,ビスコンチなど様々な形状の異なるヒルトがあります.剣を握った時に手にしっかりフィットする形状であり,これらはアルミ鋳物で出来ています.最近ではスピード化に対応するためにマグネシウムの高圧鋳造品も販売されています.右の写真は選手の手に合わせて精密鋳造で作られたグリップです.

 表紙写真は,3種類あるうちの「エペ」と呼ばれる競技です.2020年3月にブダペスト(ハンガリー)で開催されたフェンシング男子エペ グランプリ ブダペスト大会にて,山田優選手(自衛隊体育学校)が優勝し金メダルを獲得した時の写真です.エペでは全身すべて(つま先も背中も)有効面で,先に突いた方にポイントが入り,両者同時に突いた場合は双方のポイントとなります.

表紙写真提供:公益社団法人日本フェンシング協会
目次頁写真提供:ニダック精密株式会社

 


Vol. 92 No. 9「カヌー・スラロームセンター」

 

東京都江戸川区にある葛西臨海公園の隣接地に新しく整備された国内初の人工カヌースラロームコースです.競技コースは,長さ約200m,幅約10m,平均勾配は約2%,平均水深は1.5mで,コース高低差は4.5mです.

カヌー・スラロームセンターで使用する18000m3の水道水は,3基のろ過機により安定的・継続的に水質を維持しています.競技コース用のポンプ設備は,1基あたり毎秒4m3の水を汲み上げるポンプを4基設置しています.東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会時には4基の内,3基を稼働し,毎秒12m3の水を送水します.フィニッシュプールの水は,このポンプ設備で競技コースのスタート地点まで汲み上げられます.

このポンプは,全高約5m,胴径約1.7mで,インバーターで流量調整されます.ポンプで使われる部品には鋳物が使われており,右の写真のケーシングにはFC250が,プロペラにはSCS13ステンレス鋳鋼が使われています.

 

コメント欄写真提供:株式会社鶴見製作所

 


Vol. 92 No. 10「旧国立霞ヶ丘競技場聖火台」

 

今を去ること56年前の1964年10月10日,晴れ渡った青空の元,聖火台に灯がともされ,第18回オリンピック競技大会が東京の国立霞ヶ丘競技場で開幕しました. この聖火台は,川口市の鋳物師,鈴木萬之助・文吾親子の手によって作られました.この聖火台は,約半世紀の間,国立競技場の高みから数々の名勝負を見守り続けてきましたが,新国立競技場建設に伴い,平成26(2014)年5月末をもって,その役目を終えました.その後,東日本大震災復興のシンボルとして東北の被災地を巡回した後,昨年10月から今年3月まで,生まれ故郷の川口市のJR川口駅東口のキュポラ広場に展示されていました.本年6月から国立競技場に戻り,東側のゲート付近で常設展示されることになりました.

 


Vol. 92 No. 11「アーチェリー ボウハンドル」

 

弓を引いて的を狙って矢を放ち,矢の当ったところで得点が決まるというシンプルなスポーツがアーチェリーです.誰にでも楽しめるスポーツですが,天候などの環境の影響も考慮しなければならず,精神面での戦いも求められます.アーチェリーにはいろいろな競技がありますが,オリンピック競技となっているものは,70mの距離で直径122cmの標的を狙うものです.最高得点は直径12cmの中心で10点となります.72射して総得点で競います.アーチェリーのボウ(弓)には軽量と強度が求められます.このため,アルミニウム合金ダイカストやマグネシウム合金ダイカストが用いられてきました.オリンピックなどの競技用には,アルミニウム合金の展伸材やCFRPが用いられています.

写真撮影協力:㈱JPアーチェリー