現場で活躍する鋳造設備

第93巻表紙シリーズ

第94巻シリーズ「鋳物用材料の溶解と溶湯処理」

溶湯の表面は,材質や溶解条件によって変化します.第94巻の表紙は,いろいろな溶湯の表情を集めてみました.

*No.1は前年度のCastings of the Year受賞作品を紹介します

 

Vol. 94 No. 1「銅錫合金鋳造製ウイスキー蒸留器ポットスチル「ZEMON」」

令和3年度Castings of the Year賞受賞作
株式会社老子製作所
若鶴酒造株式会社
富山県産業技術研究センター

 


Vol. 94 No. 2「鋳鉄の湯面模様1:笹の葉状」

湯面模様は,古くはキュポラでの鋳鉄溶解において取鍋の溶湯温度が低下してきた時に現れるといわれてきました.笹の葉状,麻の葉状,亀甲状などがあり,溶湯成分や性状,温度などの判定に使われてきました.近年の研究により,キュポラ溶湯と同じ成分条件を満たせば高周波誘導炉においても,湯面模様が現れることが明らかとなっています.

湯面模様が現れる条件は,0.02%以上のS,0.5%以上のSi,適量のC量,溶湯温度1250℃~1400℃程度の範囲です.黒鉛化度が0~20%と低いチル化しやすい悪い溶湯では,笹の葉状の模様が観察されます.表紙の写真は,溶湯成分:Fe-3.2wt%C-1.8%Si-0.8%Mn-0.1%P-0.1%S,溶湯温度:1350℃,接種なし,黒鉛化度:0%,高周波誘導炉(出力50kW,3000Hz,炉内径200mm,炉材Al2O3+MgO)

写真提供:株式会社木村鋳造所

 


Vol. 94 No. 3「鋳鉄の湯面模様2:楓(かえで)の葉状」

2月号では,あまり良くない溶湯である黒鉛化度の低い,笹の葉状の湯面模様をお見せしました.3月号では,笹の葉状よりは少しだけ黒鉛化度の高い,楓(かえで)の葉状の湯面模様をお見せします.過去の湯面模様の分類には,笹の葉状・麻の葉状・亀甲状があります.過去の文献には,楓の葉状の記述はありません. この楓の葉状は,まれにしか現れないことから,過去の文献にないものと思われます.楓の葉状という名前は,著者らを含む編集委員会で命名いたしました.

 この楓の葉状の模様が,他の湯面模様と異なり不思議なのは,中心に種のような白い酸化物と思われる物が見られることです.この種のような物が何なのかは,興味をそそられるミステリーとなっています.成分等は,2月号とほぼ同じです.黒鉛化度は,25±5%程度になります.

写真提供:株式会社木村鋳造所

 


Vol. 94 No. 4「鋳鉄の湯面模様3:麻の葉状」

3月号では,稀にしか見られない楓(かえで)の葉状湯面模様をお見せしました.4月号では,2月号の笹の葉状の湯面模様と良い溶湯とされる亀の甲状湯面模様の中間である麻の葉状湯面模様をお見せします.この麻の葉状湯面模様は楓の葉状ほどではありませんが,笹の葉状や亀の甲ほど安定的に現れる湯面模様ではなく,良い溶湯である亀の甲状から悪い溶湯である笹の葉状に変化する間の,短時間の間だけ現れることが多いように思われます.黒鉛化度は,30±5%程度の範囲で見られることが多いように思われます.成分等は,2月及び3月号とほぼ同じです.

  麻の葉模様は,正六角形を基本とする割付(わりつけ)文様(着物などの模様)の一種になります.江戸後期に歌舞伎役者の嵐璃寛(あらしりかん)が,舞台で娘役を演じた時に,この文様を用いたことから当時の女性達の間で大流行したそうです.

写真提供:株式会社木村鋳造所

 


Vol. 94 No. 5「鋳鉄の湯面模様4:亀甲状湯面模様」

 5月号は, 昔から良い溶湯の時に出るとされる亀甲状湯面模様になります. 黒鉛化度が40を越えてくると, 亀甲模様が発生するようになります.

  湯面模様の白く光って見える部分は, SiO2の酸化膜になります. みかん色の部分が溶湯になります. これは, 一般的に酸化物の方が溶湯より輻射率が高いためです. また, このような, 重力とは無関係に表面張力の不均一によって起こる対流をマランゴニ対流と呼びます.

  湯面模様が発生するためには, SiO2の膜が発生する必要があるため, 0.5%以上のシリコンが必要になります. 高炉ができるまで, SiO2+2C→Si+2COの反応によりSiを得ることは出来なかったので, 湯面模様は高炉ができてからの話になりますが, 韮山反射炉の日記には, 安政5年(1858年)2月22日の3番砲の鋳込みで, 初めて亀甲銑300貫(1125Kg全溶湯の23%)を使ったことが記されています. 高炉がない時代に, どのようにしてシリコンの入った銑鉄を入手し,なぜ亀甲銑と呼んだのか, 謎は深まるばかりです.

写真提供:株式会社木村鋳造所

 


Vol. 94 No. 6「鋳鉄の湯面模様5:微細な亀甲状湯面模様」

 先月の5月号では,黒鉛化度が40を越えてくると現れる一般的な亀甲状の湯面模様をお見せしましたが,今月の6月号では,さらに細かな亀甲状をお見せしました.著者も,興味本位で0.6%の接種をしてみたところ,心が魅了される美しい模様になり,驚かされました.ねずみ鋳鉄の共晶セルが接種で細かくなって行くように,湯面模様の亀甲模様も細かくなって行くことは,理由は良くわかりませんが,非常に興味ある現象です.写真の細かい亀甲模様は,黒鉛化度が90弱程度の時に現れたものです.成分は2月号の成分に,接種からのシリコンでSi値が0.43%増したものです.

 湯面模様シリーズの表紙は6月号で終了しますが,今回の湯面模様のように,鋳造にはまだまだ未解決の課題が多くに残っています.日本鋳造工学会メンバーの技術者,研究者の方々のチャレンジを期待しております.

 

写真提供:株式会社木村鋳造所

 


Vol. 94 No. 7「置き注ぎ法による球状化処理の様子」

 今月の表紙の写真は, 球状黒鉛鋳鉄製造時における置き注ぎ法(サンドイッチ法)による球状化処理化処理の様子になります. 写真の球状化処理の条件は以下になります. 
 溶解は50Kg高周波誘導炉で行い,溶解量は50kg, 球状化処理後の溶湯目標成分はFCD700相当(C3.65%, Si2.10%, Mn0.30%, P0.025%, S0.01%(元湯S0.012%), Cu0.7%, 残Mg目標0.038%). 球状化剤は, Fe-45%Si-4.4%Mg, 添加量は溶湯量に対して1.7%になります. カバー剤はSSのポンチ屑500g, 溶湯量に対して1.0%になります. 出銑温度は1510℃になります.

 写真のように, 球状化処理時の反応が激しいほどMgの歩留まりが低下することになるため, 可能な範囲でこの反応をおとなしくするように工夫することが重要になります.

 

写真提供:株式会社木村鋳造所

 

 


Vol. 94 No. 8「純銅鋳物溶湯」

 純銅鋳物は,導電性や熱伝導性が良いことから電機部品や熱交換機部品に使われています.溶湯表面では大気中の水分が解離して水素,酸素として平衡になるまで溶湯中に溶け込みます.水素はピンホール欠陥,酸素はCu2Oとして共晶析出して伸びの低下の原因となるため,木炭被覆等による溶解雰囲気管理,適切な脱ガス,脱酸処理を行って出湯します.写真は被覆してある木炭を除いて掬った表面で,強い対流模様が確認できます.通常の溶解では木炭に覆われ湯面を覗くことはできませんが,溶融した銅の赤色を背景に,雰囲気に応じて色付く青や緑のガスが揺らめき,とても美しい光景です.

 

 

 


Vol. 94 No. 9「青銅鋳物溶湯」

 青銅鋳物は銅にすず,亜鉛,鉛を数%づつ添加した合金です.日本において銅合金のなかでは最も生産量が多く,強度が高く耐食性が良いことから水栓器具,バルブ,産業機械部品に幅広く使用されています.青銅や黄銅など,亜鉛を多く含有する銅合金の溶湯では,昇温の過程で蒸気圧の低い亜鉛が沸騰を起こして,水素を溶湯から分離排出する脱ガスの効果がみられます.また注湯時には空気中の酸素と反応して酸化亜鉛の白煙を生じるのも特徴的です.実際の操業では必要に応じて脱ガスを行い,りん銅を添加して脱酸して数分沈静してから出湯します.

 

撮影協力:中島合金株式会社

 

 


Vol. 94 No. 10「アルミニウム合金」

 鋳造用アルミニウム合金は,アルミニウムにけい素,銅,マグネシウムなどを添加した合金です.アルミニウム合金溶湯は,空気中の酸素と反応して酸化被膜を作りやすく,また,水素ガスを吸収しやすい性質があります.酸化被膜などの介在物が鋳物中に巻き込まれたり,多量の水素ガスが鋳物中に入ると鋳造欠陥となり,鋳物の機械的性質などに大きな影響を及ぼします.そこで,フラックスを用いて介在物を除去したり,不活性ガスを溶湯中に吹き込んで,脱ガスを行ったりします.表紙の写真は,そのような溶湯処理をしたAC2A合金溶湯の表面です.表面のフラックスを掻いて,アルミニウム合金溶湯表面が出るとすぐに空気中の酸素と反応して,薄い酸化被膜を生成します.


Vol. 94 No. 11「マグネシウム合金」

 マグネシウム合金は比重が1.7と最も軽量な金属構造材料として知られ、比強度や振動吸収性が高いという特徴があります。耐食性や耐熱性、難燃化された合金の開発により航空機や高速鉄道への応用が期待されています。
 マグネシウム合金は反応性が高いことから、SF6等のカバーガスにより湯面を覆い、炉蓋を閉じての溶解となります。表紙写真のように炉蓋を開たり注湯の際には酸化膜が途切れて強力な閃光を発します。

 

撮影協力:TANIDA株式会社

 

 


Vol. 94 No. 12「純すず溶湯」

 すずは,柔らかく展延性を有した金属で,さびにくいといった特徴があります.昔から,鉛との合金であるはんだや,銅に添加して青銅などとして用いられてきました.害が少ないため,食器としても利用されています.最近では,すずのずっしりとした重さや色合いが醸す高級感から,すず製の酒器やインテリアが人気です.融点は,231.9℃で,簡単に溶かすことができるため,こども鋳物教室など,鋳造の体験講座の材料としても使われます.
 表紙の写真は,鍋で溶解した純すずです.表面は酸化することなく,きれいな鏡面です.