木口昭二さん(62歳) 近畿大学教授

第85巻(2013)第5号

金属が溶ける,溶かすというのは
こんなに面白いものか
大きな溶解炉に胸を躍らせ
情熱をもって
鋳造を盛り上げていきたい.

<プロフィール>

  • 氏 名: 木口昭二さん(62歳) 近畿大学教授
  • 出身地: 新潟県
  • 略 歴: 1979年3月早稲田大学院理工学研究科博士課程修了.同4月小松製作所入社.1996年近畿大学理工学部.現在近畿大学機械工学科教授, 全学共通教育機構副機構長,教養・外国語教育センター長

Q 木口先生は大学受験のときに金属を志望されたそうですが,どういう理由だったのですか.

A 実は高校の頃は医学部志望だったんです.その頃,日本で初めて心臓移植が成功したという大きなニュースがあって,医者志望って多かったんですよ.でもよくよく考えてみたら私は血がだめで(笑).それで好きな数学をやろうと数学科を志望したのですが,早稲田大学は第二希望が書けるんです.そこで金属工学科を書いたのですが,それには理由があって,その前の年,東北大学を受けた友人が第一志望の建築ではなく第二志望の金属に受かったときに入学せずに浪人するというのを「東北大学の金属は有名だぞ」と説得して入学させたことがあったんですね.それで,人に勧めた以上,自分も書かなきゃいけないかと.そしたら見事に第二志望の金属に受かってしまったんです.そして早稲田大学には鋳物研究所というのがあったので,ごく自然に鋳物の門を叩くことになりました.

 

 

Q 最初に鋳造の勉強をされたときはどんな印象だったでしょうか.

A 面白い.すごく面白かったですね.鋳物と言ってもいろいろありますが,私が入った加山延太郎先生の研究室は溶解の研究室で,金属が溶ける,溶かすというのはこんなに面白いものかと思いました.当時大学内に,規模はそんなに大きくないですが低周波誘導炉とキュポラがあって,技術職員に指導してもらいながら学生が自分たちで溶解をやるんですよ.溶湯にある特性を持たせるためにいろいろな成分を混ぜ,その成分がどういう働きをするか調べたりして.これがすごく面白いんです.ものづくりってこういうことだなって実感できますね.その後就職して大規模な溶解炉を見たときもやっぱり胸が躍りました.今でも学生に溶解実験をやらせるとすごく喜んでもらえますよ.

 

Q 大学院で博士課程を修了されて小松製作所に勤め,それから現在の近畿大学に移られたんですね.

A そうです.おじが日本軽金属にいて新潟工場を何度か見学させてもらったことがあったので,なんとなく私も日軽金に就職するのかなと思っていたのですが,オイルショックやニクソンショックの影響でなかなか採用がなく,待ちながら博士課程まで進んでいるうちに新潟工場がなくなってしまったんですね.結局日軽金とは縁がなく,小松製作所に就職しました. 
 コマツには神奈川の平塚に材料技術研究所というのがあり,私はそこに配属が決まっていたのですが,荷造りを終えてさあ送ろうかという段になって急に大阪の生産技術研究所に行って鋳造の研究をしてくれという話になったんです.それまで大阪には行ったことがなく,いやだとごねたのですが(笑),結局は行くことになり,コマツで17年,近畿大学に来てからもちょうど17年で合わせて大阪の暮らしも34年になり,もっとも長くなりました.
 コマツの生産技術研究所には第一研究所と第二研究所があって,鋳造のほか,熱処理,溶接,機械加工,ロボット,システム開発などが研究されていました.研究員が50人くらい,補佐してくれる人を合わせても全体で100人程度の小さな世帯で,毎月発表会があり,ほかの分野の人が何をやっているのかもお互いわかっていました. 鍛造や溶接,ロボットの分野ですごい研究をしている人もいて,自分の研究の裾野を広げるという意味では本当にいい環境で勉強させてもらったと思います.そこでの研究は大学よりずっと進んでいましたから,近畿大学に来てから「そんな研究はとっくにやっているよ」と思ったこともありますね.そしてコマツ時代の最後の3年間は鋳造部門を別会社(現在のコマツキャステックス㈱)にしようという計画にも携わり,事業計画,マネジメントをすごく勉強させてもらいました.生産技術研究所で勉強したことは私にとって大きな財産です.
 しかし一方で,鋳物の将来には不安を抱いていました.鋳造に入ってくる人をもっと増やさなければ,将来,かかわる人が少なくなって,鋳物を作りたくても作れなくなるんじゃないかと.そんな折,中村幸吉先生(第23代日本鋳造工学会会長)に声をかけていただき,今度は鋳造にかかわる人を育てる大学へと移ることになりました.それから今まで大勢の卒業生を鋳造の世界に送り出し,現在も皆いろいろな企業で活躍していますよ.卒業生同士が「こんな材料欲しいんだけど」などお互いに情報を交換し合っている姿を見ると,頼もしくてうれしくなりますね.よく,企業を経験してから大学に行くほうがいいんじゃないかなどと言われることがありますが,その点については私はそうは思いません.ずっと大学にいた人でも立派な人は立派ですよ.

Q これから鋳造を究めようとする若い人たちにメッセージをお願いします.

A とにかく鋳物を好きになって,これ以上ないほどの情熱を持って取り組んでもらいたいと思います.サッカーの本田圭佑選手が,行き詰ったとき「情熱は足りているか?」と自問すると言っていましたが, なにより情熱は大切です.そして徹底的に現場を見ること.現場で起きていることを問題意識を持って見て,課題を一つ残らず拾い上げていく姿勢を持つ.これが大事なことだと思います.会社によって仕事の進め方や内容は違うけれど,ここは全部に共通して言えることだと思っています.鋳造の世界を情熱で盛り上げていきたいですね.

 

木口先生に5つの質問!

 

Q 趣味は?

A ゴルフ,読書,囲碁(この順番)

 

Q 座右の銘は?

A 高校時代の恩師が色紙に書いてくれた「成功に驕ることなかれ,失敗に挫けることなかれ,うまずたゆまず努力に努力」

 

Q 鋳造以外で就いてみたい職業は?

A 昔「考古学」にあこがれた時がありました.

 

Q 今,いちばんほしいものは?

A 「時間」でしょうか.

 

Q 1カ月休暇があったら?

A 体力が続く限りゴルフをしているのではないでしょうか.