恒川好樹さん(65歳)豊田工業大学教授 

第83巻(2011)第4号 インタビュー:2010年10月3日

否応なしの人事異動で大学へ
豊田工業大学の立ち上げから30余年の教授職

<プロフィール>

  • 氏 名: 恒川好樹さん(65歳)豊田工業大学教授
  • 出身地: 長野県
  • 略 歴:
    1973年,ラトガース州立大学大学院博士課程修了.
    1974年,トヨタ自動車工業株式会社に入社.
    1981年,豊田工業大学に転籍,現職

Q 恒川先生は,アメリカの大学院で博士号を取得されたのですね.

A そうです.大学の学部卒研生から修士課程までお世話になった恩師,井村徹先生は,積極的に海外留学を勧める先生でした.その影響で,研究室全体が海外へ行こうという雰囲気だったんですね.1年先輩がドイツに行ったもので私はアメリカへ留学したくなったんです.でも,私は英語がむちゃくちゃ嫌いで.高校時代,大学時代と,英語の成績はひどいもので,英語の勉強をとにかく避けてきました.修士課程を3月で修了した後,9月のアメリカの大学院入学のため, NHK技術研究所で研究の手伝いをしながら勉強を続けましたが,月末が近づくと,仕送りもバイト代も底をつき,渋谷の立ち食い蕎麦屋で1日かけそば1杯,という厳しい生活でした.すきっ腹で大嫌いな英語の勉強はきつかったですね.無事にアメリカの大学院への入学が決まり,渡航したときはほっとしました.でもこれは間違いで,本当の英語地獄はここから始まりました.

 

Q 大学院修了後,日本へ戻って就職されたのですか.

A 博士課程終了後,ポスドクとして大学に残っていましたが,急に帰国しなくてはならなくなり,またしても無職になってしまいました.そしてこの時も井村先生に就職の世話をしていただきました.まったく就活をせず,生活のためにとにかく就職しなければならなかったので,業種を選ぶ余裕はありません.幸いにも2か月間の浪人後,トヨタ自動車に就職できました.途中入社ですから,新人研修などは一切なく,初日に会社の就業規則等の説明を受けただけで,2日目にはもう配属されました.

 就職先では鋳鉄部品開発グループに配属されたのですが,私はまったくの専門外.明らかに戦力外の新人,という扱いでした.ちょうどこの頃,試作で不良率95%だった部品を,3カ月で10%に下げろという命が担当部署に下り,グループ全員が残業月130時間という過酷な状況で対策にあたったのですが,私はここでもやっぱり戦力外で,「メカニズムを調べろ」という仕事を与えられました.ところがこれがすごくおもしろかったんです.鋳鉄を鋳込んだときにどのくらい収縮するか鋳型を変えてテストしたり,この3カ月間にさまざまなことをし,鋳鉄実験のノウハウを徹底的に学ぶことができました.

 その後,私はトヨタ自動車内大学の設立準備室に異動になりました.否応なしの人事異動で大学に勤めることになったという点では,非常に珍しいケースかもしれませんね.

大学設立の準備はとにかく大変で,若手の仕事は実験室の配線から機械工作演習で使う設備や道具類の購入まで,何を買うか,どこで買うかも全部自分たちで決めなければなりません.24時間以内に1万冊の書籍を選ばなければならず,2人がかりでひたすら書籍のカタログに丸印をつけ続けたこともありました.

 そうして1981年4月,第一期生が入学しました.社会人大学としてスタートしたので,最年長の入学生は27歳でした.皆会社の代表として入学してきていますから,必死で勉強していました.今ではだいぶ雰囲気も変わり,社会人で入学する人は2割弱になりましたけれど.

 

Q 大学教授というお仕事の醍醐味とはなんでしょうか.

A 卒業生の活躍を見ることですね.私は180人ほどの卒業生を出していますが,卒業生が就職後の会社で活躍して,研究室に研究助成金を援助してくれたりすると,本当に嬉しくなります.また,学会の大会で隣合わせた人がたまたま卒業生だったりするのも,とても嬉しいことです.それから私は授業をするのが大好きなんですね.だから,今の仕事を気に入っており,天職だと自信を持って言うことができます.

 

Q では,若い人たちへメッセージをお願いします.

A 前向きに,欲張りな人生を歩んでほしいと思います.佐田登志夫先生の「山賊として大成するための秘訣」のお話に,「遠目が効き,腕力が強く,逃げ足の速い山賊になれ」というのがあります.これは三戒,すなわち「先見の明を持ち」「実力をつけて」「仕事,決断は早く」ということを表しています.私は学生時代,井村先生に「君の実験は粗っぽくていい.桁が合っていればそれでいい.とにかく最初にやる.そういう仕事をしろ」と言われたことがあります.この言葉を非常に気に入っていますが,私は勝負師ではありません.でも迷ったらイエス,これを心がけています.若い人たちには,それぞれの立場で修業を積んで,立派な“山賊”になってほしいと思います.

 

<コラム> 恒川先生に5つの質問!

 

Q1 座右の銘は?
A  「今が大切」(本多光太郎先生)

 

Q2 ご自身の性格を一言で言うと?
A  欲張りと淡白(弱点)が交錯している

 

Q3 日課にしていることは?
A  タンちゃん(愛犬)との散歩

 

Q4 「夢」または「野望」は?
A  分身の術,時間延長の術

 

Q5 1カ月休暇があったら何をする?
A  コーヒーソムリエ修業