茂木徹一さん(70歳)千葉工業大学教授

第84巻(2012)第2号

16ミリフィルムで見た
溶ける鉄のシーンに魅せられ
金属を志した高校3年生.
それから鋳物・凝固研究一筋で
早半世紀.

<プロフィール>

  • 氏 名: 茂木 徹一さん(70歳)千葉工業大学教授
  • 出身地: 栃木県
  • 略 歴: 1964年千葉工業大学工学部卒業,同4月名古屋大学工学部助手.69年千葉工業大学助手,74年同大学専任講師,85年同大学助教授,87年同大学教授,現在に至る.

Q 茂木先生は学生時代から通算するともう半世紀も千葉工業大学にいらっしゃるわけですが,最初に千葉工業大学の金属工学科を選択したのはどんなきっかけだったのでしょうか.

 A 当時は「鉄は国家なり」と言われた時代でした.でも実は私自身は,中学生・高校生と卓球ばかりやっていて,あまりきちんと将来のことを考えていなかったんです.卓球では,県内ではそこそこ強かったのですが,それでもインターハイに出てみると,全国にはもっと強い選手がたくさんいるんですね.それで,これは卓球では食べていけないなと(笑).それで卓球部を引退した高校3年生の11月に本気で進路を考えたんです.ちょうどそのころ,学校で視聴覚教育というのをやっていて,先生が製鉄会社を紹介した16ミリフィルムを見せてくれたことがあり,私はそこで初めて鉄の溶ける場面を見ました.フィルムでは真っ赤な鉄を型に流し込んで固める様子が映っており,それに感動した私は,「これはすごい.どうしたらこういう会社で働けるのだろうか」と思ったんです.それで調べてみたら,どうやら金属工学科に行ったらよいらしいということ,千葉工業大学にその学科があるということがわかりました.一方で私はずっと栃木県で育ったため海に憧れがあり,海のある県の大学に進学したいとも思っていました.ですから,海に囲まれた千葉県にあって材料工学科がある,という二つの条件を満たした千葉工業大学にすぐ目標が定まり,この大学への進学を決めたのです.

 千葉工業大学の津田沼キャンパスは,初めは日露戦争時の鉄道連隊の兵舎を払い下げてもらって利用していました.レンガ造りの2階建ての兵舎が4棟あって,それをそのまま使っていたんです.今では近代的なビルになって面影もありませんが,通用門には今でもレンガの隊門が残っています.今のように地方に自由に選べる大学がある時代ではなかったので,大学には全国から学生が集まっていて方言もそれぞれ.青森出身学生と鹿児島出身学生ではお互いに何を話しているのかわからない,などということもありました.どこの大学でもそうだと思いますが,学生も,キャンパスの雰囲気も,当時と今とではまったく違っていますね.

Q 思い出に残っているお仕事にはどんなものがありますか.

A ありすぎて逆に思い出せません(笑).学生もいろいろ個性があって,皆思い出に残っています.

研究では,助教授のころ,大野篤美先生の研究室でスペースシャトルでの無重力の環境を利用したアルミ銅の共晶系合金の実験をしたことがありました.もちろん我々は一緒に乗り込むわけにいきませんから,宇宙飛行士の毛利衛さんに実際の操作はしていただいたのですが,そのために,電気炉にカートリッジを差し込んで全自動で実験を行うという装置を作って臨むのです.とにかく宇宙で実験を行うというのは大変制約のあるものなのですね.
当初,1cm×5cmのアルミ銅合金の試料をカートリッジに入れる計画をしていましたが,NASAから安全性の指摘があり,三重のカプセルに入れなければならず,最終的には3mm×45mmという,まるで鉛筆の芯みたいな試料になってしまいました.それでも無重力での実験には大変成果があり,新しい発見がたくさんありました.スペースシャトル以外にも,種子島でロケットを使って実験したことも2度ありますし,航空機を使った実験や炭鉱の縦穴を利用した落下カプセル実験も何度も行い,それぞれ成果を得ることができました.しかしこれらは無重力にできる時間が飛行機でせいぜい20秒,ロケットだって6分しかありません.私が生まれ変わったら,ぜひ宇宙に鋳造工場を作ってやりたいなと思っているのです(笑).

Q 茂木先生が思う鋳造の魅力とはなんですか.

A 私が魅力的だと思うのは,溶けた金属の色です.鉄が溶けたときの真黄色.そして少し温度が下がってきたときの真っ赤な色あい.とても美しいと感じます.固まったあとの組織もきれいですが,やはり溶けているところがいちばんよいです.もしかしたら,高校生のときに見た16ミリフィルムの映像の印象がどこかに残っているのかもしれません.以前はこの大学でも鋳鉄の鋳造を学生実験でやっていたんですよ.シェル鋳型で灰皿を作るという簡単なものですが,二人がかりで注湯するのです.学生は怖がって腰が引けていますけれど(笑).でも学生にとってはとてもよい経験になっていると思います.

Q ではこれからの若い研究者や学生へアドバイスをお願いします.

A 鋳造はものづくりの原点で,大切な技術です.そうはいっても,最近は材料系の学科が減ってきていますね.実際にやってみればおもしろいのですが,高校生にそれを伝える術がなかなかないというのが現実です.私たちも高校へ「出前授業」という形で出かけて材料はおもしろいということを積極的に伝えようとしています.若い研究者,関係者にはぜひ,鋳造を広く伝え,がんばってほしいと思います.

 

<コラム> 茂木先生に5つの質問!

 

Q1 すきなことわざは?
A  「為せばなる」

 

Q2 趣味は?
A  国内外を旅すること

 

Q3 日課にしていることは?
A  朝のウォーキングで体調を整える

 

Q4 座右の銘は?
A  大胆に! 繊細に!

 

Q5 鋳造以外で就いてみたい職業は
A 宇宙飛行士