鹿毛秀彦さん(61歳) 有限会社日下レアメタル研究所

第85巻(2013)第1号

鋳物とは自然そのもの.
考え出せば
鋳物から宇宙の話まで
ぜんぶつながっていく.
だから鋳物って
こんなに面白いんですね.

<プロフィール>

  • 氏 名: 鹿毛秀彦さん(61歳) 有限会社日下レアメタル研究所
  • 出身地: 北海道
  • 略 歴: 1977年3月室蘭工業大学工学部金属工学科卒業,同4月(有)日下レアメタル研究所入社.1993年室蘭工業大学大学院博士後期課程修了.

Q 鹿毛さんは鋳造との出会いはどのようなきっかけだったのですか.

A きっかけは,偶然です(笑).室蘭工業大学には学科が8つか9つあったのですが,私は入学試験の成績があまりよくなかったようで希望する学科ではなく金属工学科に入りました.室蘭は鉄の街なので大学の講義にも鉄の話が出てきますが,1500℃の世界なんてちょっと想像がつきませんでした.私の家は根室の酪農家で,せいぜい100℃でやけどする,くらいのものです.いったいどうやって1500℃なんていう温度を作り出すのかと首を捻ったものです.そんな状態で4年生になり,所属した講座で私の卒論のテーマがダクタイル鋳鉄の熱処理でした.これもまた偶然ですね.

 私が大学を卒業する年は第二次オイルショックの只中で,ひどい就職難でした.行くところ行くところで落とされる私に教授が勧めてくれたのが今の会社でした.そうして私は初めて北海道を離れ,東京で働くことになりました.

 入社したてのころ,超音波を使って鋳鉄の球状化率がわかる,という話が外から持ち込まれ,それをうちの会社で商品化しようということになったんです.私はその仕事にかかわることになり,大学時代の恩師と一緒に論文を何本か書きました.そして40歳を過ぎてから再び大学へ戻って博士後期課程を修了し,そこから仕事が急に忙しくなっていきました.

 私の鋳造とのかかわりは本当に偶然と出会いが重なっていたというもので,意識して道を選んだわけではなかったのですが,今振り返ると,井川克也博士,田中雄一博士はじめ本当にいい人とたくさん出会い,うまくつながっていったものだと感謝しています.

 

Q  鹿毛さんのお話はわかりやすくて面白く,今ではいろいろな大学で講義をされる機会も多いそうですね.

A あちこちでしゃべる機会が多くなり,話を聞いた人から「今度はうちでしゃべってくれ」と声がかかるようになりました.鋳物を紹介するありがたい機会なので喜んで出かけることにしています.その結果,いつの間にかいくつもの大学で講義を担当することになってしまいました(笑).でも,いろいろな場所で自分が考えていることを話しておくということも大切なのではないかなと思っています.

大学で話をするようになって思ったことがあります.私は専門的な内容の講義を担当することが多いわけですが,学生たちは卒業後,必ずしもその専門にかかわる仕事に就くわけではないですよね.むしろ,そんな人はごく一部だと思うのです.では,どうしたらこの講義が役に立つのかと.そこで,社会に出たときにどこでどう役立つのかを中心に話すようにしました.そうすると「ああ,そういえばあの時こんな話をしていたな…」というような形で思い出してもらえるでしょう.だから私は講義のはじめに,学生に「風はなぜ吹くか,考えたことがありますか」などというところから話を始めます.「風がなぜ吹くか,それは中学校や高校で教わった知識で理解できる話です.でも,咄嗟には出てこないでしょう.そこをうまく使えるようになれば世の中はずっと面白くなります.この講義もそうです.しっかり聞いていれば,いつか君たちが社会に出たときにきっと役に立ちますよ」と.今の大学のカリキュラムは専門家を育てるためにはよくできていますが,多くの,普通に就職して社会に出ていく学生にとって直接役に立つ講義というのは実に少ないと思います.だから私はなるべく学生たちに実社会で役に立つような話をしてあげようと思っているんです.

 

Q 日本鋳造工学会の活動で思い出に残っていることはどんなことがありますか.

A 私が関東支部のYFE主査になったとき,他支部でやっている子ども鋳物教室を関東支部でもやってみようという話になりました.とはいえ,それまで小学校とのつながりがあったわけでないので,片端から電話を掛けて説明に出向く,というやり方でした.小学校の校長先生を相手に「鋳物とは何か」という話から始めるのですが,これが話している間にだんだん熱が入ってきてしまって(笑).先生が困ってるんじゃないかというようなこともしばしばありました.そして鋳物教室をさせてもらえることになると,今度は子ども相手に「鋳物とは何か」という話をします.「鋳物がないと日本の工業は成り立たないんだよ」という話からものづくりの話へ行き,「君たちはやがて大人になるよね? 大人になるということはものづくりができ人になるということなんだよ.ものづくりというのは形のあるものだけでなく,例えば先生であれば生徒を育てる,会社の社長であれば会社をマネジメントする.そういう有形無形全部含めた何かの“ものづくり”ができるようになって初めて大人になったといえるんだよ」という話もします.相手は小学校5年生ですからどこまで理解できているかわかりませんけどね(笑).

 鋳物というのは自然そのものです.さまざまな,幅広い知識があって初めて理解できるもので,一朝一夕に身に付くものではありません.だからこそ,一見関係ないように見える体験や学習が役に立つことがあるんですね.私は若い人に「行き詰ったら一度そこを離れて別の分野からの水平展開を考えろ」と言っています.考え出したら鋳物から宇宙の話まで,全部つながっていくんです.だから鋳物はおもしろいんですね.

 

鹿毛さんに5つの質問!

 

Q1 座右の銘は?
A  「為せば成る」「やらないことが一番悪い」

 

Q2 趣味は?
A  スポーツと散歩かな

 

Q3 今,してみたいことは?
A  体が耐えられればスカイダイビングとバンジージャンプ

 

Q4 自分の性格をひと言で言うと?
A  消極的で積極的,かな.この年になってもよくわからない.

 

Q5 夢は?
A 内側から固まる鋳物を作る.錆びない鋳鉄を作る.