大澤 嘉昭さん(59歳)物質・材料研究機構
第84巻(2012)第6号
鋳造の研究室で唯一機械工学科出身.
知識を生かして実験装置を自作し,
それがやがて全国で使われるように.
「自分の考えた装置が世で役立つのは
とても大きな喜びです」
<プロフィール>
- 氏 名: 大澤 嘉昭さん(59歳)物質・材料研究機構
- 出身地: 群馬県
- 略 歴: 1976年3月芝浦工業大学機械工学科卒業,2000年新潟大学大学院博士後期課程修了.1976年4月科学技術庁金属材料技術研究所(現:独立行政法人物質・材料研究機構)入所,現在に至る
Q 研究室には大澤さんが作られた装置がずいぶんあるようですが,もともと機械工学科のご出身なのですね.
A 子供のころから機械が好きで,ちょうどモータリゼーションが進む時代でしたので,車も好きでした.子供ですから機械を作ったりはできなくても,農業をしていた自宅のリヤカーのパンクを直したりなどは,よくしていました.
就職は科学技術庁金属材料技術研究所で,鋳造の研究室に配属になりました.大学時代に機械設計を学びましたので,実験で使う装置はほとんど自分で作りました.大きな装置は外で作ってもらうのですが,小さいものは自分で作ったほうが早いのです.私が入った当時,鋳造の研究室は4人いて,機械工学科出身は私だけでしたから,結果的にほとんどの装置を私が設計から担当することになりました.といっても最初から完璧な装置ができることはほとんどなく,何度も手直しを重ねてなんとか……ということが多いのですが(笑).自分の作った装置で実験がうまくいき,その成果を論文にまとめられたときは,大きな達成感があります.
Q お仕事で印象に残っているエピソードにはどんなものがありますか.
A 今から20年以上前になりますが,鋳鉄の金型鋳造を実用化しようという動きがありました.これは結局コストや品質の点でうまくいかずに実用化には結びつかなかったのですが,金型を使用しても時間短縮にならないという大きな問題もありました.そこで,急速に溶解した際の組織を研究するために,溶接の研究室からフラッシュバット溶接機を借りてきて,鋳鉄試料を3秒くらいで急速溶解して急速に固めるという実験を行ったことがあります.そのとき敢えて,受け皿の方の試料だけではなく,溶接機のチャックに残っていた試料を顕微鏡観察してみました.するとそこには非常に微細な黒鉛がたくさんできていたのです.球状黒鉛鋳鉄が溶解した後に微細な球状黒鉛がコロニー状に存在している組織を観察したときの興奮は今も強く印象に残っています.
東京の目黒にあった金属材料技術研究所は,昭和32年の発足当初は鉄の研究室がたくさんあったのですが,その後,研究の場が鉄鋼会社に移っていき,一度は鉄の研究室がまったくなくなった時期がありました.それで私も鉄からアルミへと研究の対象を変え,それまでまったく扱ってこなかったアルミを手掛けることになりました.その後,再び研究所に鉄の研究は戻ってきたのですが,私はそのままアルミの研究を続けました.一方それより前,超音波研究が一斉を風靡し,研究所でも取り上げられていました.でも当時の超音波の発信機は性能があまりよくなく,超音波研究はものにならずに埋もれてしまったのです.しかし後になって,とても性能のよい超音波発信機がでてきたので再び目をつけてやってみたら,今度はとてもうまくいったんですね.そのときに私が考えた装置はやがて全国で使われるようになりました.自分が考えたことが実用に生かされるというのは研究者としてとても大きな喜びで,これも印象に残っています.
Q 大澤さんは鋳造工学会でも支部や本部の活動でずいぶん活躍されていますね.
A 気がつけば,学会でいろいろな役割を経験することになりました.思い返せばすべてのきっかけは日下賞をいただいたときからで,そこからYFE委員会の委員になり,支部活動などにもかかわるようになっていきました.
私の所属する物質・材料研究機構はたくさんの研究室・グループがありますが,全員でまとまって同じことをやるということはあまりなく,研究者一人ひとりはそれぞれ自分のやり方で研究を進めます.全体の目標はあっても,そこへ向かうプロセスは個人の技量に任されているところがあるのです.それは自由で楽しい部分もありますが,うまくいかないときは孤独です.そんなとき,学会の活動に参加していろいろな人と話をすると気分転換になるし,話の中から打開策のヒントを得られることもあります.そういう意味でも学会の存在はありがたいと思っています.
Q では,大澤さんからみた鋳造の魅力とはなんでしょうか.
A 私は就職して初めて鋳造を知りました.実験室で扱うのはCO2型やYブロックなどの単純なもので,成分や温度を変えて凝固組織の観察を行ったりすることが主ですが、それでも大したものだと感嘆していました.しかし実際に工場に行ってみると,そこはまったく別世界.自動車の重要な部品がきれいな状態で次々に作り出されているのを見て,たいへん感動を覚えました.これだけの複雑な形状を1工程で作り出す.これは鋳造という技術の大きな魅力でしょう.
鋳造は歴史ある古い技術ですが,まだ最先端の研究があり,物質・材料研究機構にも必要な研究分野としてしっかり位置づけられています.知識も必要ですが,知恵や工夫で改善できることも多く,やりがいが持てる分野です.鋳造はこれからもずっと続いていく,もっとも優れた加工法のひとつであると思っています.
<コラム> 大澤さんに5つの質問!
Q1 趣味は?
Q2 座右の銘は?
Q3 日課にしていることは?
Q4 今いちばんしたいことは?
Q5 自分の性格をひと言で言うと |
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