杉原優子さん(28歳) 株式会社能作

第85巻(2013)第4号

デザイナーから上がってきた原型を
鋳物に変えていくことが私の仕事
どんなに難しくても
なるべくデザイン変更はしたくない.
望み通りのものを作りたい.

<プロフィール>

  • 氏 名: 杉原優子さん(28歳) 株式会社能作
  • 出身地: 石川県
  • 略 歴: 2007年3月信州大学教育学部卒業.同年4月 ㈱能作入社,現在に至る

Q 杉原さんと鋳物との出会いはどういうものだったのですか.

A 大学の授業で出会ったのが最初です.私が卒業した信州大学教育学部の美術教育分野は,彫刻,デザイン,美術史,そして鋳造の専攻があり,どれを選んでも必修科目として鋳造の授業がありました.私自身は実は鋳造ではなくデザイン専攻だったのですが,授業で鋳造をやったときは,おもしろいなと思っていました.

私がもの作りを仕事にしたいと強く思うようになったのは,長野県松本市で毎年行われているクラフトフェアが大きなきっかけになっています.このクラフトフェアには信州大学の鋳造の研究室と有志が毎年作品を出品していて,私も一緒にシルバーの指輪やペンダント,ブロンズの文鎮などを作って出品させてもらいました.そしてそこで初めて自分の作った作品を売り,そして手に取ってもらって買ってもらうという経験をしたのです.自分の作ったものが売れるという経験はとても新鮮で,自分でものを作る仕事がしたいと思うようになり,大学卒業後は実家からも近く,ものづくりの盛んなこちらを就職先に選びました.

 

Q  鋳造の現場にはなかなか女性が少なく,杉原さんもこちらの会社では唯一の女性職人ということですね.

A そうですね.やはり,体力を使う仕事が多いですから.でも,私が主に担当する錫の製品は細かいものが多く,そういうものだったら女性でもできますね.実際,いくつか会社を回った時には現場で女性がたくさん活躍している会社も見ました.女性は多くはありませんけれど,まったく女性に向かないとは思わず,細かい作業も結構ありますし,女性向きな面もあるなと感じることもあります.

しかしそうはいっても,大きいものをやったときというのは達成感も大きいのは確かですね. 私は普段,上司と一緒に仕事をしていますが,1メートルくらいの大きな照明器具を手掛けたときは,とにかく大変でしたけれど,できあがった時の達成感もひとしおでした.デザイナーから上がってきた原型を鋳物の製品に変えていくことが私の仕事ですが,鋳物のことをよく知らないデザイナーの作品だと,一見簡単そうに見えても鋳物にするのがすごく難しい場合があります.そういう場合でも,いきなりだめと言わず,とりあえずやってみることにしています.そしてどうしてもだめなときは調整をお願いしますが,デザインが大幅に変わるようなことは極力しません.なるべく最初に上がってきたデザインで起こしたい気持ちがあるんです.その可能性を広げていくのが私たちの仕事でもありますね.

 

Q 杉原さんは昨年の秋,女性鍛冶師とコラボレーションした鎧風デザインの下着「女性維新ブラ」(トリンプ)の作製にもかかわっていらっしゃいますね.

A あれは突然いただいた話だったのですが,結構苦労しましたね(笑).私はカップ部分の鋳造を担当したのですが,桜の花をモチーフにしたかなり複雑なデザインで.本当はシリコン鋳型を使った方が作りやすいデザインだったと思うのですが,コンセプトが「社会で戦う女性をイメージ」ということで女性職人によるコラボという点から私が担当する生型でやらなければならず,最初はどうやって起こしたらよいのだろうかと頭を悩ませました.どうしても桜の細かい模様の部分の原型が浮き上がってきてしまうんですよ.最終的に望むとおりのものを作ることができてほっとしました.

 

Q 杉原さんが大学を卒業して就職されてからちょうど6年.これからまだやってみたいことがたくさんあるかと思いますが.

A そうですね.やってみたいことはいろいろあるけれど,今は毎日の仕事で精いっぱいというのが正直なところです.今私が主に扱う錫という素材は,重量感はあるけれど鉄ほど重くなく,ほどよい重さでどっしりと来る感じが私はとても好きです.それからちょっと高級そうな色合いも上品でいいですね.その錫の可能性をもっと広げてみたいと,日々の仕事の中では思っています.といってなかなか手をつけるゆとりはないのですけれど(笑).

 私は趣味でよく博物館に行くのですが,そこで大昔の青銅の釣鐘などを見ると,大昔からこんなことを人はやってきたんだ,すごいなと素朴に関心します.そしてそういうものを見るにつけ,鋳造という技術は人間が生きて行く上で必要不可欠な技術で,この先も決してなくならないと思います.でも一般の人にはなかなか知られていない技術でもありますね.先述の松本クラフトフェアでは売り上げを使って地域の子供たちに鋳物を体験してもらうイベントを行ったりしていますし,学校で美術の教員になった先輩の中では,授業に鋳造を取り入れようと努力している人もいますが,手間もかかるし設備や場所も必要ということからなかなか思うようにできないのが現実です.もっと知ってもらうための情報発信が今後も必要になってくると感じています.

 私は現在入社6年.入社したてのころに持っていた「根拠のない自信」というものがだんだん薄らいできています(笑).今はまだ毎日に精いっぱいで先のことはわかりませんが,いつか自分の作ったものを自分で売る,そんなことをしてみたいなと思っています.

 

平塚先生に5つの質問!

 

Q1 好きな言葉は?
A  「人生いろいろ」

 

Q2 今,いちばんほしいものは?
A  体力,モチベーション

 

Q3 自分の性格をひとことで言うと?
A  あまり一つのことにこだわらない

 

Q4 今旅に出るとしたら?
A  ヨーロッパの建築物が見たい

 

Q5 鋳造以外で就いてみたい職業は?
A 社長業