梅田泰輔さん(32歳) 株式会社能作
第85巻(2013)第3号
伝統ばかりにこだわることなく
常に新しいものを探して挑戦していく.
自分の周りに広がっているフィールドは
限りなく広く,
荒野を行くような気分で
日々鋳物に向き合っている.
<プロフィール>
- 氏 名: 梅田 泰輔さん(32歳) 株式会社能作
- 出身地: 愛知県
- 略 歴: 2005年3月愛知教育大学教育学部卒業,同年 ㈱能作入社.現在は主にシリコンゴム鋳型の製作を行う
Q 梅田さんは教育学部工芸科で鋳金を専攻されたのが鋳造との出会いということですね.
A そうです.工芸科にはほかにも織物や陶芸,漆などがありました.その中でなぜ鋳金を選んだのかというと,工房の雰囲気がよかったというのが一番の理由ですね.鋳造は造形の自由度が高く,自由な形を金属で作れるというのもかっこよくて魅力でした.それに,金属を溶かしているところなんて,普段は目にすることがないですよね.るつぼの中で1000度くらいになった金属が溶けている様子というのにもロマンを感じました.
大学時代はたくさんの作品を作りましたが,次第に自分で作品を作り出していくよりも,その作品を使ってもらうとか,要望をもらって制作するとか,社会とものづくりとをつなぐ仕事の方が自分には向いているんじゃないか,と悩むようになりました.そんなとき,錫を使った作品を多く手がける私の尊敬する作家さんが,「もし工芸を続けていくのなら,産地に行った方がいい」とアドバイスをくれたのです.それで,ちょうど鋳物をやっていることだし高岡でも見学してみようかという軽い気持ちでここを訪れたときに今の会社に出会いました.この会社は伝統の中にありながらそれにしばられることなく積極的にいろいろなことに取り組んでいて,ここならものづくりもできるし企画も営業もなんでもできそうだぞ,と思ったんです.
Q 現在はシリコン鋳型を使った錫の鋳造を主に手がけていらっしゃるということですね.
A 最初に会社見学に訪れたとき,「今,こんなの試作し始めたんだよ」と,錫でできたぐい飲みや片口を見せられました.大学時代にお世話になった作家さんの錫の作品に影響を受けて私も大学に取り入れようとしたほど錫には馴染みがありましたが,高岡は銅やアルミが中心で,まさか錫の作品に出会えるとは思っていなかったので運命的なものを感じましたね.最初は生型でやっていましたが,錫は融点が低いのでもっと違う鋳型も考えられるのじゃないかと思っていたとき,ちょうど富山県総合デザインセンターでシリコンゴムを使った鋳型の研究をしているので共同で研究して実用化にもっていこうという話が立ち上がったんです.それで,一緒に開発に携わることになりました.富山県というのはものづくりを積極的に支援している県で,デザインセンターでは他県のデザイナーと地元のメーカーが一緒にものづくりに取り組むワークショップなどを開催しています.実は今回Castings of the Year賞を受賞して2号の表紙の写真になった「スクエア」という作品も,そこから生まれたアイデアなんですよ.デザイナーが仙台の出身の方で,七夕飾りからヒントを得たんだそうで.現場にいる人間にはちょっと思いつかないアイデアですね.デザインセンターから社長あてに電話がかかってきて「おもしろいものができたので見に来てください!」と言われ,駆けつけてこれを目にしたときは感動しました.
Q お仕事で苦労したことや思い出に残っていることはありますか.
A シリコン鋳造をやり始めたばかりの頃,本当に小さな,箸置きだけを作っていたんです.もともとその製品のためにシリコン鋳型を使い始めたようなものだったので.しかしそれだけでは,いつ他の技術に取って代わられるかわからないという不安を抱えていました.そこで型を工夫して強度を上げ,少しずつシリコン鋳造の範囲を広げていくようにしていきました.昨日より今日はまた少し領域を広げたぞ,という小さな積み重ねで今日まで来ています.しかしシリコン鋳造はまだ本格的にやっている人も少なく,今の技術は欠陥だらけだと思っています.だから荒野を行くような気分で日々取り組んでいるんですよ.この先道がどうなっているかわからない不安もありますが,自分の周りに広がっているフィールドも限りなく広くて,まだこの先大きな進歩の可能性があると感じています.しかしそうはいっても,私はこの会社の中心になる技術はやはり生型で,シリコンは補助的な技術だと思っています.だからシリコンへのこだわりはそんなに強くなくて,もっと他によいものがあるんじゃないかといろいろ試したりもしているんです.
Q これからどんなことをしてみたいですか
A この仕事に携わるようになって,学生時代にもやもやしていたものが晴れてきたというか,自分はこうやって社会とかかわっていくのかな,というのが見えるようになりました.そういう意味では高岡は私の育ての親であり,鋳物を通して得た良い縁がたくさんありますね.今の仕事はいろいろな事を経験させてもらえるポジションで,そういう恵まれた環境にいられることを幸せに感じます.私は以前,伝統産業って元気がないなと思っていました.でもこの会社では伝統ばかりにこだわることなく常に新しいものを探して挑戦していく姿勢があり,それはとても大きな魅力だと思っています.地域の作り手が魅力的になると,その土地全体の魅力度も上がっていくと思うのです.この土地に行くとこんなおもしろい人やものに会える,やがてそれが名物になり,その地方でしかできないことになっていく.そういう土地がどんどん増えれば,日本全体が生き生きしてくると思うんです.そんな風になればいいなと思いますね.
梅田さんに5つの質問!
Q1 好きなことわざは?
Q2 趣味は?
Q3 自分の性格をひと言で言うと?
Q4 鋳造以外で就いてみたい職業は?
Q5 今から10年後,何をしていると思いますか? |
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