Vol.94No.2 日下賞受賞者紹介(2) 黒須信吾さん

 学会表彰のひとつである「日下賞」は,今後の活躍が期待される若手の研究者・技術者に贈られる賞です.2021年度に授賞された方々の研究内容や今後の目標等を紹介するシリーズの第2回目は,地方独立行政法人岩手県工業技術センターの黒須信吾さんです.

 みなさま,こんにちは.岩手県工業技術センターの黒須(クロス)と申します.この度は,日下賞という栄えある賞を受賞させていただき,身に余る光栄と存じます.大変恐縮ではございますが,自己紹介について述べさせていただきます.

 2013年に岩手県工業技術センターに入庁し,配属当初から鋳造品およびアルミダイカスト品に関する不良解析およびその対策について勉強しながら,企業様と一緒に取り組んでおります.鋳造企業の方に「黒須です.」と挨拶すると,「えっ?あのクロス?」とたびたび聞かれ,不思議に思っていましたが,あとで聞いてみると鋳物砂などを扱っている会社があると知り,親族以外の「クロス」に初めて会ったことで,鋳造業界に対してハートを射抜かれた(いわゆるスキスキスキスキス→「クリティカルヒット」ってやつです.)のを覚えております.その後,2016年に東北公設試初となるレーザビーム金属積層造形装置(L-PBF),2018年に電子ビーム金属積層造形装置(EB-PBF)を導入し,レーザビームと電子ビームの二刀流で,造形により得られた組織や機械的特性について調査研究を行うようになりました.最近では,造形費が高くなかなか利用できないとの企業からの要望を受けて,標準条件よりも造形速度が速く(つまりは造形費が安い!),かつ特性も同等な造形品を提供できるオリジナル造形条件の開発について精力的に取り組んでおります.

 さて,まわりから2つの金属積層造形を担当して大変だねと心配されることがあります.(確かに,体が2つあればいいのにとか,1日48時間あればいいのに,とつぶやいたりしますが……時々ですよ.)しかし,私にとっては楽しい日々を過ごさせてもらっています.松坂・広末世代の私は,2008年に岩手大学で博士号を取得し,その後東北大学金属材料研究所の千葉晶彦教授のもと,研究員として活動し,2010年にEB-PBFと出会い,見事にクリティカルヒットされていたのです.

 金属積層造形は未来の生産技術,鋳造に変わる敵対技術などとして捉えている方も少なからずいらっしゃるかと思いますが,実は非常に鋳造とかかわり深い技術になります.2010年当時の研究は,急速溶融・凝固により得られる特異的な組織の解明や最終製品形状近くまで成形されることからその後の熱処理による組織制御に関する研究が主流でした.どちらかと言えば,粉末冶金に近いような感じです.しかし,その後10年,現在では金属積層造形の研究は,造形条件により溶融・凝固をコントロールすれば要望の組織・特性を得ることができる,溶融・凝固挙動から得られる組織・特性を予想できるといった研究へ発展しています.また,金属積層造形装置メーカおよびユーザーの世界最大手である某G社は本技術を「箱に入った小さな鋳造工場」と位置付けており,従来の鋳造技術およびノウハウをキーと捉えております.つまりは,溶解凝固を制するものが金属積層造形を制するといっても過言ではございません.そこで,みなさまには本技術を体験して頂き,できるところ,できないところ,鋳造技術の強みの再認識などを感じてほしく思っております.また,私も金属積層造形に興味を持って頂くよう,クリティカルヒットするような研究に邁進していく次第です.

 最後に,クリティカル耐性の低い(感動しやすい)得な性格と丈夫な体に育んでくれた両親およびこれまでお世話になりました先生方,企業の方や職場の皆様に心から感謝申し上げます.今後も,いろいろなことにクリティカルヒットされ,高い関心をもち,日本鋳造工学のお役に立てられるよう,微力ながら尽力していきたいと思っております.

連絡先

地方独立行政法人岩手県工業技術センター
黒須 信吾
〒020-0857 岩手県盛岡市北飯岡2-4-25
TEL:019-635-1115
E-Mail:kurosu(at)pref.iwate.jp
*(at)を@に変えて送信ください.